
創刊記念特別読切第2弾センターカラー
カラーの扉絵はピンクを基調にした渦巻きのような模様をバックにポーズをとった岸辺露伴。
緑色の枯れ木を背に右手を曲げて頭の上に上げ、左手は下げている
服装は白っぽい詰襟のような上着と白のゆったりしたパンツ
青いラインで縁取られている
いつものギザギザヘアバンドとペン先型ピアスも青
命尽きるまで------!芸術人----ッ!!!
岸辺露伴は動かない
------六壁坂(むつかべざか)------
絵 荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS
(原作 岸辺露伴)
場所は洒落た作りのカフェ
他にもチラホラとテーブルについている客
帽子をかぶった男が肩から下げたカバンを下ろし会釈して席に着こうとしながら言う
ペコリ
「お疲れさまでェー〜す いい天気ですね 何読まれてるんですか?」
| 貝森稔【かいがもりみのる】(23)到着 漫画編集者(入社1年目・既婚子供なし) |
この二人-----打ち合わせッ!
手前に座っている人物は本を開いている手元だけが見える
「ド・スタールだよ」
小さな声で返事する相手
「ドスタール?新人バンドかなにかですか?」
編集者貝森は興味無さそうな様子で聞いて振り返りうしろにいる店員に頼む
「あスミませんペリエひとつ」
ピクリ
耳につけた相手の男のピアスが動く
「・・・・・・・・・・・・・・・・興味深いな・・・・編集者の君にはこれがミュージシャンの本に見えるのか?100メートル先の薄暗い所から眺めても画集にしか見えないと思うが」
その後姿は岸辺露伴
露伴は「DE STAEL」と書かれた画集を手にネチネチと貝森に言う
「・・・」
黙っている貝森
「画家だよ ’55年没『ド・スタール』が描く絵は・・・」
画集を開き中の絵を見せながら言う露伴
| 岸辺露伴(27) 漫画家 (デビュー11年目・独身) |
「抽象画でありながら 同時に風景画でもあって そのギリギリのせめぎ合いをテーマに描いている こんな簡単な絵なのに 光と奥行きと哀愁があって泣けるんだ」
露伴の顔アップ
「つまり『絵画』で心の究極に挑戦しているんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
頬杖をつき気の無い返事をする貝森
ペリエを置いていくウェイターの手
「あのね--------!!貝森くん・・・・・仕事の打ち合わせに遅れるってのは社会人としてもちろんNGなんだが」
パタン
画集を閉じる露伴
「漫画家のとこに『6分』も早く着くなんて 編集者として礼儀知らずってもんじゃあないのかッ?」
そう言われ腕時計を見る貝森
「あっ」
驚く貝森
「し・・・・・・失礼しま・・・した 早いのもダメですか・・」
「ボクだから良かったな じゃあさっそく次の『読み切り』61ページの打ち合わせをしよおっか!」
グラスを手に嫌な顔をしながら言う露伴
「スイませーん 露伴先生 ファンなんスぅ--------ッ」
突如現れた小林玉美(4部のスタンド使い『ザ・ロック』を使う)が色紙を持ってきて言う
「サインしてもらっていいスかあ?音石くんって書いてください」
玉美の後ろには同じくサイン用色紙とギターを手にした音石明(4部のスタンド使い『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を使う)
「あっ ダメ!ダメ!サインはダメよ君たち!」
2人に向かって声を上げて制する貝森
「今仕事中だからねッ!忙しいのッ!遠慮してねッ」
ドビシュッ
その後ろから2人の方に向かって何か飛ばす露伴
「もうすでに描いたよ 仕事の遅いヤツといっしょにするな サインくらいSPECIAL THANX!(スペシャルサンクス)」
「どわっ!!いつの間に スゲッ! ドリッピング画法!コーヒーで!」
叫ぶ玉美
2人の色紙には露伴が飛ばしたコーヒーで絵とサインが描かれている
「ありがとっスッ!どーもしたッ!」
ギターと色紙を持って頭を下げる音石
「ところでちょっとさあ〜 打ち合わせの前に少しばかりナマナマしい話してもいいかい?」
頬杖ついて身を乗り出す露伴
ペリエをグラスに注ぎながらハッとする貝森
「『ナマナマしい話?』」
「ああ・・・ズバリ言うとカネの話だよ・・・原稿料の話 いいかい?」
露伴は言う
「前借りできないかな・・・・・・・・・・・・・・?実は最近『破産』した」
「・・・・・え!」
驚く貝森
「借金まではしてないんだが・・・・・今・・・家がない・・・・康一くんのとこ泊めてもらってるし 漫画描く机もない 『セーラームーン』のフィギュアも『レッド・ツェッペリン』の紙ジャケも『るろうに剣心』も全部売っ払っちまった」
ゴホッ
神経質そうに額に手をやり咳き込む露伴
「なんですってッ!」
叫ぶ貝森
「モン無しってヤツだよ 財産は君のまったく興味のない ド・スタールの画集 これ一冊だけだ 悪いか?」
チラリ
画集を見せる露伴
「仕事場ないんですか!?破産って・・・!?でも この間 露伴先生 山林買ってたでしょ!?別荘地のッ!?」
テーブルに両手をつき大声を上げる貝森
「だからさッ!あの山で妖怪伝説のマンガ描くってんで取材してたら」
不機嫌そうに言う露伴
「開発業者がリゾート道路通そうとしやがったんだ・・・それで周りの山を6つ買って道路工事を阻止したんだよ 仕方なかった できるだけ面積たくさん買わなきゃダメだろ?道路を止めるんだからな」
説明する露伴の手の周りにテーブルの上の花瓶やグラスやコップが寄せられる
「で・・・・・・リゾート道路計画が無くなったもんだから 土地価格が値くずれして」
セリフの中の下向き↓と『DOWN』の文字
原野同然・・・買った6つの山は二束三文になっちまった・・・つまり僕はモン無し・・・原稿料前借りできる?悪いか?」
頭をかく露伴
「ちょ・・・ちょっと待ってください 今の話確認させてください」
あせる貝森
「先生 マンガの『取材』のためにあそこの山買ったんですか?投資目的じゃあなく?」
両手の指を組み不安そうに聞く貝森
「そうだよ・・・必要なのはリアリティーだ」
テーブルの上の両手にアゴを乗せ露伴は言う
「妖怪伝説の取材のために?」
「くどいな!!」
貝森の言葉に声を荒げる露伴
「もし道路が開通してみろ 仮に妖怪が あの山から逃げていなくなっちまう・・・かもだろ?・・・そうなったら 台無しってやつだ!」
自信満々に言い放つ露伴
「・・・・・・・・」
ゴクリ
生唾を飲み込みビビる貝森
そして露伴から目をそらし嫌な顔をする貝森
「おいおいおいおい なんだよ その顔は? あ・・・目をそらしてるッ!僕のこと 頭があぶないヤツだと思ってるらしいな!!編集者くん」
怒って貝森を指さし大声で叫ぶ露伴
「いいか!スーパーカーを買ったり 自宅の地下にゲームシアター作ったりするだけが漫画家の金の使い道じゃあないだろ?」
そして顔の前に手をかざし露伴は言う
「しかも・・・ちゃんといたんだからな 取材の価値は十分あったぜ いいか!この話をするのは君の編集部だけだぜ」
「・・・・・・・・? ?」
よくわからない様子の貝森
「いた・・・・・?え? いたって何がいたんです?」
聞き返す貝森
「なぁ・・・君ねぇ!人の話ちゃんときいてるんのかッ!?」
露伴は貝森を指さして言う
「この目で見たんだ 『六壁坂(むつかべざか)の妖怪は今もいる ヤツは まだ 今もあそこにいるんだ!」
「・・・・・・・・・・・スミません露伴先生 も もう一度言ってもらっていいですか?何がいるんですって?」
こわごわ聞く貝森
| 大郷楠宝子(おおさとなおこ)は来春卒業予定の女子大生だが 9月の終わりにボーイフレンドを殺害した・・・・・・ |
下着姿で手や体を血まみれにした美しい若い女
呆然としたような表情
| 彼女は六壁坂村で300年続く味噌作りで成功した一族のひとり娘----- |
松の木とその下に続く田舎道 向こうに田んぼや山々が見える
| その屋敷は一本道のつきあたりにあり・・・つまり そこの山全体が大郷家の所有 |
山の中にある立派な豪邸
続く塀の中に屋敷や立派な松の木が見える
| 両親は娘を溺愛し 女学校のあるS市内へもひとり暮らしは決して許さず 運転手の送り迎えを雇って 中・高・大学の10年間を自家用車で毎朝夕片道2時間かけた通学をさせた |
山々の間を走る道路を行く高級車
| そういったわけかどうかは知らないが・・・・・・ |
屋敷の離れ
| 楠宝子が知り合った『釜房郡平』は大郷家を手入れする庭師・・・ |
ギュン ギュン ドギャン
TVゲームに興じる坊主頭と半ズボンの若い男
「ねえ楠宝ちゃんゥ就職決まったァ?どんなとこ面接受けてんの?」
振り返り楠宝子を見る釜房郡平
「・・・・・・」
楠宝子は障子の隙間から外の様子をうかがう
窓の外には母屋と門が見える
門のそばには車とそこから下りてくる人影
パタン
障子を閉じる楠宝子
「ねえ・・・・・・飲み物飲んだら今日は帰ってくんない?ゲームもかたづけてね・・・」
テーブルを片付けながら楠宝子が言う
「・・・・・・」
坊主頭にラインを入れた若い男 釜房郡平はしばらく黙っている
「なんだよ・・・・・・・本宅の方に誰か来たのか?」
身を乗り出して様子をうかがう釜房郡平
「誰だ?あれ・・・」
障子の外には二人の人影
「君の父さんといる あのダセえウエストベルト位置のまぬけ顔(づら)は?」
「いいから帰ってってば!裏からね」
グラスやカップを片付けながら楠宝子が言う
「・・・・・」
黙っていた釜房郡平が言う
最近なんつーかさぁ------・・・・・・・・・ずっと思ってたんだけど・・・その 楠宝ちゃん 近頃 なんつーかさぁ〜〜〜〜〜」
釜房郡平の声を背中で聞きながら暗い表情の楠宝子
「冷たくなったよねぇ 盛り上がんないんだよ・・・・・誰だあの男は? まっさかの まさかだよね--------ッ」
釜房郡平が言う
楠宝子はタンスの引き出しから何かを取り出す
ス・・・
それは分厚い封筒
バサッ
封筒の中からはみ出す一万円札
「・・・・・・」
それをクールな目で見る釜房郡平
「勘づいてるんなら話が早いわ・・・お互い楽しい思い出だったという事で・・・・・」
楠宝子が言う
「うちのお父さまが許すわけないのよ あなたはただのバイトの庭師 あたしはこの家の財産を守らなければならないひとり娘 あなたと会話してるのを見ただけで・・・・・お父様は自分の部屋で寝こんでしまうわ」
封筒を手に楠宝子の話を聞いている釜房郡平
釜房郡平の目
「やあぁ------だよッとっ!」
グシィッ
楠宝子に抱きつく釜房郡平
「やだっ」
叫ぶ楠宝子
「ウッソォでしょ!?楠宝ちゃん いいじゃん このままで・・・・・・べつに別れなくても・・・・・それともこうやって 今抱きついてるとこ 君のお父さんと あの70年代野郎にみせつけてやるかッ!」
「は・・・な・・・して はなしてよ」
釜房郡平の腕からもがき逃げようとする楠宝子
「はなしてってばッ!」
バシッ
釜房郡平を平手打ちする楠宝子
「なに!!」」
バシィッ
反射的に殴り返す釜房郡平
「あ・・・」
頬を押さえる楠宝子と思わず殴ってしまったことに驚く釜房郡平
「あ・・・ご・・・ごめん き・・・君が先に殴ったんだからね 本当に好きなんだ・・・・・・楠宝ちゃん このままでいいんだ このまま 誰にも内緒のままで」
あせって謝る釜房郡平
「帰ってッ!帰ってよッ! そのお金持ってッ!帰ってってばッ!」
ドンッドンッ
釜房郡平を突き飛ばす楠宝子
「お父さん 今日は楠宝子さんはご在宅ですか?」
「どうだったかな あのゲストハイスにいるかもしれん・・・・・・・」
離れを見ながら会話する二人
「君が突然訪ねて来たので あわててるかもな おめかしするのに必死で」
歩いてくる二人
それを見ている楠宝子
「ま・・・まずいわ!こっちに来る!」
障子の隙間から外をうかがいあせる楠宝子
「お願い早く荷物を持って出てってッ! 本当の事いうわ!あなたはステキ!でも彼は婚約者(フィアンセ)よ 来春卒業したら結婚することが決まってるの!あなたと知り合う何年も前から両家で決まってたのよ!だからもう終り!会う事はできないのよ!」
楠宝子は釜房郡平を振り返って言う
釜房郡平の暗い表情
動かない釜房郡平
その首筋の後ろにゴルフクラブの入ったゴルフバッグがある
そしてそのクラブの一つが血まみれになっている
釜房郡平の目はうつろ
ポタッ
首の後ろのクラブから滴り落ちる血
その血は・・・釜房郡平の首から出ている?
「郡平?・・・・?」
釜房郡平の様子を心配そうに見ている楠宝子
ブチン
首からゴルフクラブが外れる
そのパターには血がたくさん付いている
ゴロンッ!
床にうつぶせに倒れる釜房郡平
首筋から血が流れる
見開く楠宝子の目
床に倒れた釜房郡平の首筋から血が流れている
その血は床に血だまりを作る
「・・・・・・・・・・・・・・ウソ また・・・からかってるんでしょ・・・・・?あたしの事 郡平・・・・・フザけないでよ」
あせった表情で言う楠宝子
楠宝子の目
指を伸ばす楠宝子
そして釜房郡平の首筋に触れる
「し・・・」
釜房郡平の首筋に指をあてて脈を調べる楠宝子
「死んでる・・・・・郡平・・・・・脈が・・・ない・・・・・・・」
動かない釜房郡平の首に手をあて楠宝子は言う
| 大郷楠宝子はとにかく・・・郡平の傷の手当てをしてやろうと思った |
釜房郡平の首を両手で抱えるようにして首筋に手を当て介抱しようとする楠宝子
| 近くにあったタオルで傷口をおさえて・・・たいした傷口ではなくこれで手当ては済んで生き返るはずと思った 目を醒まして今までのようにしゃべり始めるはずだと・・・ |
ゴルフクラブの入ったゴルフバッグ
| 『これは郡平の悪フザケ・・・絶対に何かの間違い』『・・・・・信じない・・・・』『料理で指を切ったくらいのちっぽけな傷』 『あたしはこの人を軽く押しただけ・・・』『すぐに帰ろうとしなかったから・・・なんであそこにゴルフクラブか・・・?』『なぜよ?まるで・・・まるであたしがッ!』 |
さまざまな思いが楠宝子の胸をよぎる
「ゴルフクラブで殴ったみたいじゃあないのッ!」
思わず叫ぶ楠宝子
「ウソッ!こ・・・呼吸も止まってるッ!心臓も動いてないッ!郡平ッ!ど・・・どうしよう!!医者よッ!医者を呼ばなきゃ!」
| ま・・・・・待って・・・・頭が混乱して来た |
頭に手をやり憔悴した表情の楠宝子
| 『まさか電話して呼ぶのは警察のほう?』 |
その考えに目を見開いて愕然とする楠宝子
トントン
「楠宝子・・・・・?いるのか?お父さんだ」
玄関のドアの向こうから声
その扉のこっち側には倒れて死んでいる釜房郡平の死体
クルッ
!
玄関の方を振り向きハッとする楠宝子
玄関先には自分のクツと釜房郡平のクツ
すりガラスの引き戸の向こうに二人の人影
「楠宝子 修一くんが遊びにみえてるぞ・・・・・・おまえに会いたいそうだ」
汗びっしょりの楠宝子
ハアッハアッ ハアッ
息遣いが荒い
| 『いない』・・・・『あたしはここにはいないわ・・・・・』 『あたしはどこにも存在しない』 |
頭を抱えしゃがんだまま釜房郡平の死体を前に現実逃避をする楠宝子
「鍵がかかっているな・・・楠宝子のやつ ここじゃあないのかな・・・」
ガチャガチャ
玄関のカギを開けようとする父親たち
口に手をあてそれを見ている楠宝子
「気のせいかもしれませんがお父様・・・さきほど ここの窓の障子が動くのが見えましたが・・・・・」
修一の声
!!
ハッとする楠宝子
「ハァハァハァ か・・・」
釜房郡平の遺体を前に再びあせる楠宝子
バンッ
「『隠さなくてはッ!!』」
急いで床の血を拭く楠宝子
ゴシッゴシッゴシッゴシッ
「『ど・・・どこかに!!とりあえず郡平をッ!』『でもどこに・・・・・・?このゲストハウスには戸棚の物入れしかないッ!!」
一生懸命考えを巡らす楠宝子
| ぐ・・・郡平の靴もッ!カバンもッ!! |
ガッ
クツとカバンを手にする楠宝子
バッ!
いきなり服を脱いで下着姿になる楠宝子
| 『バスルームはない!あの狭いトイレに人間を横たわらせておける!?』 |
ズルズルズル
脱いだ服とバッグを手に、背中にクツを置いた釜房郡平を抱えて引きずる楠宝子
| 『ソファの下!』『あそこ!とりあえずあそこしかないッ!』 |
| 『ソファの下へッ!』 |
ブワ・・・
釜房郡平の首筋から流れ出す血
ドクドク
血はどんどん流れている
「何 これ?」
あせる楠宝子
「『脈が無いのに・・・心臓も動いていないのに・・・・・』・・・どういう事?」
トクトク
さらに流れる血を拭く楠宝子
| 『郡平の血がさらに出続けている 流れていく・・・』 |
ガチャ
扉の方で音
「たしかに中で気配があるな・・・」
父の声
「楠宝子 いるのか?どうした?様子が変だぞ!」
叫ぶ父
「合鍵がある・・・開けてみよう」
ガチャッ ガチャ
あせる楠宝子
「ハァハァ 『合鍵』 ハァ」
楠宝子は床の血を拭きながら答える楠宝子
「あ!おっ お父様ッ!きッ 聞こえなかったわッ! い・・・今!キッチンで片付け物してたのッ!」
バッ ゴシゴシッ
玄関の血を拭いながら叫ぶ楠宝子
ピタリ
合鍵で開けかけていたカギの動きが止まる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙った扉の向こうの父
「お・・・楠宝子 いたのか?修一くんがみえてるぞ」
楠宝子は釜房郡平の首を持ち上げ止まらない血をなんとか止めようとタオルで押さえる
グイ グッ
| 『なんなのよ・・・』これは なに・・・・!? |
両手で釜房郡平の頭を抱えタオルで血を押さえる楠宝子
| どうしてこんなに血が出るの?・・・出続けてる |
ポタポタポタ
| ・・・どうしよう まさか・・・!まだ生きてるの? |
「ま・・・まあ!嬉しいわッ!修一さんが来ていらしていただいて お・・・終わったらすぐに行きますので・・・・・・本宅の方でお待ちいただいて・・・・!!」
汗だくで釜房郡平の体を抱えながら返事する楠宝子
「なんか声の様子がおかしいぞ・・・大丈夫か?手伝おうか?」
扉の外の声
「ハァーハァーハァー」
息を切らす楠宝子
「だっ大丈夫ッ!着替えもしているのよッ!絶対に 絶対にッ!玄関を開けないでッ! 開けちゃダメ!本当にすぐそっち行くからッ!」
叫びながら背中を持って釜房郡平の体を引きずる楠宝子
ガッ
ズルズルズル
ビシャッ
流し台に置かれた血まみれのタオル
ジャージャー
手を洗う楠宝子
排水穴に流れていく血
バッ
下着姿のまま楠宝子は流し台の上の戸棚を開け救急箱を取り出す
シュッシュッ
消毒スプレーを釜房郡平の頭に吹き付ける楠宝子
シュッ
釜房郡平の首筋近くの傷跡に消毒スプレーを吹きかけタオルで受けて傷口を洗う楠宝子
ビィィーッ
そして口で絆創膏テープを引っぱって伸ばし切る
傷口をバッテンにしたテープで二重に止める
ベタッベタッ
ベタ
念のためXの上にもう一度貼って3重にテープで傷口を止める
プクリッ
しかし絆創膏テープが浮いて盛り上る
・・・
それを凝視する楠宝子
ブワッ
絆創膏からあふれる血
ブシュッ
血が吹き出るように絆創膏を貼ったところからあふれ出てくる
ビュッ ビュッ!!ビュッ!!
ものすごい勢いで絆創膏からあふれて吹き出る血
「ひっ」
思わず叫ぶ楠宝子
シワシワシワシワ
釜房郡平の目玉がみるみる干からびてシワシワになっていく
グシャッ
そしてまるで老人のようにシワだらけになってしまった釜房郡平の顔
「ひィィッ-----!!」
悲鳴を上げる楠宝子
「な・・・なによッ!何なのッ!」
叫ぶ楠宝子
ジャージャー
楠宝子の背後で流しっぱなしの水道
「確実にし・・・死んでいるわ!!瞳が灰色で 目がクシャクシャになっていく・・・・・く 口の中もッ!」
一気に死体らしくなってしまった釜房郡平
「でも何なのよッ!バンソーコーでも血が止まらないッ!人間て死んだあとも出血してくるの!?しかもあたしはもう後には戻れない・・・証拠を消す行動をしてしまった・・・警察が見たらあたしが犯人!」
ジャージャー
水音がしている
「なんとしても これを止めなきゃッ!どれだけ出血するのッ!どんどん床が汚れていく!お願い!何としても この血を止めなきゃ」
床に流れる血
「楠宝子さん・・・ずいぶん水道が出ているね・・・何してるんだい・・・・・?失礼・・・・・水音がここまで聞こえるんだ」
ジャージャージャージャー
楠宝子の背後の玄関の戸の向こうで修一の声
振り返る楠宝子の目に涙があふれている
「ハァーハァーハァーッ」
息を切らしている楠宝子
「修一だよ・・・まだ玄関の前にいるのかって・・・思っているのかい?実をいうと・・・君と2人っきりになれるよう 君のお父さんが気を使ってくれたみたいだ 合鍵をかしてくれたよ」
修一が言う
ジャージャーッ
水の音はまだ激しい
ガチャ・・・
玄関の扉が開きかける
「君とは知り合ってからあまり2人っきりになった事はないよね・・・」
修一の声
「ダメッ!!ダメよッ!!絶対に入っちゃダメよッ」
叫ぶ楠宝子
ピタリッ
開きかけた扉が止まる
| 『早く止めなくてはッ!』 |
ガタッ ガタッ
救急箱を探る楠宝子
| 『なんとしてもすぐにこの血を止めなくてはッ!!』どんどん流れる |
「着替え中というわけかい?」
扉の向こうの修一の声
「実をいうと楠宝子さん さっき ここの障子戸が動いた時 窓の奥に人影が見えたんだ・・・・・気のせいかと思ったんだが」
「・・・!!」
ドキッとする楠宝子
「君の他に もうひとりいるように見えたんだ・・・・・まさかそこに 誰かいるのか? 君 今!ひとりではないのかい?」
ヒィィイイイイ
泣きながら針に糸を通す楠宝子
| 止めなきゃ!なんとしても止めなきゃ |
震える指先に針と糸
| 『ごめんなさい ごめんなさいッ!』 |
泣きながら心で謝る楠宝子
針の先が釜房郡平の頭皮に刺さる
ブツッ!
「うあああああああ」
泣きながら釜房郡平の傷口の皮膚を縫い合わせる楠宝子
ブシュッ ブシュッ
飛び散る血
| 『郡平を針で縫うなんてごめんなさいッ!』 |
| でも悪いのはあなたよ あたしは悪くない |
ブッ
頭の傷は布のようにきれいに糸で閉じられていく
ビュッ!
糸のついた針を引っぱると血が出る傷口
飛び散った血が顔にかかる楠宝子
ブシュウゥウウウッ
血は突然まるで噴水のようにすごい勢いで吹き出してその辺じゅうに飛び散る
「うあああああああっ」
叫ぶ楠宝子
「ど・・・・・・どうした?楠宝子さんッ!? 何だ?今の叫び声はッ!」
ドンッドンッドンッ
心配して扉を叩く修一の声
| な・・・何なのこれッ!? |
ドバッ ドバッ
あふれる尋常でない量の血を泣きながら押さえる楠宝子
| なんで こんなにたくさんの血がッ!ひィィ---ッ |
「ハァーッハァーッハァーッ」
息を荒げながら楠宝子は流し台に向き直る
バッ
カチカチッ
血だらけの手とタオルでガスコンロを点火する楠宝子
ゴォーッ
そしてスプーンを火で焼く
「何が起こってる!?やっぱり誰かいるのかッ!」
ガチャッガチャ
再び扉を開けようとする修一
ゴォーッ
真っ赤に焼けるスプーン
| 止まって!止まってッ!お願い!これ以上出続けないでッ! |
願いを込めながら楠宝子はスプーンを持ってそれを釜房郡平の頭に近づける
| お願いッ!郡平ッ!! |
ジュゥゥゥゥーッ
焼けたスプーンを郡平の頭に押し当てる
ベコン
スプーンが傷口にめり込んでへこむ
「開けて中に入るぞッ!」
修一が叫ぶ
「ひィイイイイィ」
泣く楠宝子
ドグッ ドロドロドロ
頭の傷に焼けたスプーンを押し付けてもまだ吹き出る大量の血
ガバッ
楠宝子は釜房郡平の頭に黒いビニール袋をかぶせる
ゴロゴロゴロゴロ
そして釜房郡平をカーペットに包んで転がし丸い筒状にする
足だけが出ているカーペット内の釜房郡平
ズルッ ズルッ
「うああああああああ」
泣き叫びながら必死でカーペットごと釜房郡平の体を持ち上げ立てようとする楠宝子
「ああああああ」
ズリッ ズリッ ズリッ
背中に乗せた釜房郡平を冷蔵庫の上に持ち上げて乗せようとものすごい火事場の馬鹿力を出す楠宝子
カシャン
カギが回って開く音
ガラガラガラ
玄関の引き戸が開いて修一が顔を見せる
ガシッ
楠宝子は血まみれの両手で冷蔵庫を押す
ズゴゴ
ガンッ!
冷蔵庫の左側から釜房郡平を乗せてから、冷蔵庫を左側に寄せて壁に付ける事により壁に付いた血液を隠した楠宝子
ガラ・・・
「・・・・・・・・」
戸の開いたところから顔を見せた修一はオールバックのヘアスタイルで背広を着ているがちょっと見ホストのようないい男
修一は玄関から入って行き台所でワンピースにエプロン姿の楠宝子が両手にゴム手袋をはめて雑巾を両手に持って後ろ向きで冷蔵庫を拭いているのを見ている
ジャーッ ジャー
水の音
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
修一はキョロキョロあたりを見回す
そばにゴルフバッグ
「あたしの他にここでもうひとり見たって・・・」
楠宝子は後ろを向いたまま言う
「それどなたの事ですの?修一さん・・・?」
「・・・・・・・」
全くの平常な様子で聞く楠宝子とあせって黙ってしまう修一
「・・・・・・・・・・・・・・」
楠宝子は後ろ向きで黙って拭き掃除を続けている
| お願い・・・『止まって』・・・『止まって』郡平・・・許して 『止まって』・・・あたしを許して・・・ |
楠宝子の頭上の冷蔵庫の上には釜房郡平の死体がカーペットに包まれて置いてある
そしてそこからさっき押し当てたスプーンが飛び出して楠宝子の顔の前にある
ポタ
血がスプーンから滴る
トクトク
流れ落ちる血
トクトク
それは楠宝子の口元に垂れる
その血を口を開けて舌でこぼさないように受け止める楠宝子
「ゴクゴクゴク ゴク」
泣きながら釜房郡平の血を飲み込む楠宝子
「すまない・・・勘違いだったよ!本当に思い過ごしだった」
ガラガラ
修一は玄関を閉めて言う
「お父さんと本宅の方で待ってる・・・」
| こうして婚約どおり大郷楠宝子は翌春挙式を迎え 修一は大郷家の養子に入った そして その後もずっと・・・・・・ずっと『釜房郡平』の血は |
山の中の屋敷
| 止まらなかった |
ポタポタ
箱から出ている管
そこから流れ出ている血
| 毎日静かに300ccほど体を動かさなければ 決して それ以上は多くなく 確実に出血し続けた |
ガラスのびんに溜まって行く血
| 全ての生命反応が完全に停止しているというのに |
干からびた老人のような釜房郡平の死体
| 大郷楠宝子は結婚以来一度も一泊以上の遠出の旅行はした事なく |
薄暗い部屋の引き出しのような木の箱に収められた釜房郡平の死体
そこから流れ出る血を受けるびん
| 毎朝・・・・・ |
ポタッ ポタッ
滴りびんに溜まる血
| グラスにたまる郡平の血液を---夫や両親--- 他の家族の目にふれる事のないよう----・・・密かに捨てるのが彼女の日課となった |
鏡台の向こうにあるクローゼットの中のタンスや衣服
その上の天井に開いた穴
| 客用の別室を改築でとり壊した後-----郡平のいる----- 本宅の彼女の寝室のクローゼット天井裏から |
| 必ず毎日・・・・・ |
|
ある時気付いた事があり・・・・コップ一杯の水を霧吹きで郡平の体に吹きかけると |
眠ったように安らかな 若いままの釜房郡平の死体
鼻のあたりが水で濡れている
| 何者なのだろう?まちがいなく死に続けているというのに |
車から降りてくる大人二人と抱きかかえられた子と手をつないでいる子
| 夫の修一との生活は子供も2人恵まれ それなりに幸福ではあったが とりたてて情熱が燃え上がるわけではなかった |
薄暗い天井裏での楠宝子と釜房郡平
楠宝子はコップの水を手に持ち、釜房郡平は若い頃のままの顔
| そんな時 楠宝子は郡平の顔を天井裏で眺めていると この死体を愛おしいと思うことさえあった |
「なんてカワイイ寝顔 郡平 あなたは あたしだけ・・・いつまでも あたしだけが 世話を焼かなきゃダメな人」
愛しそうな嬉しそうな安らかな表情で眠るような釜房郡平を見つめる楠宝子
| この『釜房郡平』の事をぼくが知ったのは この地方のどこかに昔からウワサされている妖怪伝説の取材に何度か訪れた時だ |
さっそうと山道を行く露伴
肩にカバン、手にペン
| 偶然たまたま この六壁坂で見かけた大郷楠宝子の記憶をぼくのスタンド能力『ヘブンズ・ドアー』で読ませてもらった |
ズキュウウウン
本にされ顔にページが出来る楠宝子
| 申し訳なかったけど芸術追求のためだ----(許してくれ)---- |
険しい表情の露伴
| そして幸運にもこの『男』の存在を・・・・・・知った |
「何者だ!?『郡平』」
露伴は山の中の楠宝子の屋敷に近づく
「あの屋敷のクローゼットの天井裏にヤツはいる なんとしても この目で『正体』を見たい・・・・」
木陰から屋敷をうかがう露伴
「知りたいのは・・・!!おまえの『目的』だ!」
ガサッ
誰かの足が露伴ににじり寄る
「お兄さん 岸辺露伴でしょ?漫画家の・・・・・知ってるよ・・・・・」
それはお下げ頭の10歳くらいの可愛い少女
「最近 この辺かぎ回ってるのね・・・・・」
驚いて振り返る露伴
「誰だ君は?」
「知らない大人とは口をきくなといわれてる 近頃変質者多いから」
大きな縦じまのワンピースを着た少女は生意気な表情で言う
クルッ
そしてきびすを返し走って逃げる少女
ダダアァッ
「おい 待てッ!!」
呼びとめようとする露伴
「!?」
露伴が少女の肩に手をかけようとした瞬間
ズテェエェン
少女は思いっきり転んで地面に倒れた
「?」
まだ触ってもいないのに・・・驚く露伴
ゴヅン
鈍い音がする
少女の倒れた場所の頭のあたりに大きな石
「・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫か君・・・・・なんなんだ・・・・・いきなり走り出・・・はっ!!」
少女を助け起こそうとしてギョッとする露伴
目を剥く露伴
「し 死んでる・・・・・・・」
少女の首に触れ脈を診て驚く露伴
指先に付いた血
少女の頭から流れ出ている血
石に当たってケガをして出血している
| 『何・・・何が起こった・・・・・!?』『ま・・・・まさか・・・・』 |
動揺する露伴
| バ・・・バカな 『な・・・なんだ・・・・お・・・おい!?』 これじゃあ・・・まるで・・・『まるでぼくが・・・ この子を・・・・!!』 |
ゴゴゴゴゴ
心の中で考えを巡らせあせる露伴
| この場所で何かしたみたいじゃあないかッ! |
横たわり死んでいる少女と傍らの露伴
少女の頭からはドクドクと血が流れ続け、その目はしぼんでいく
シワシワ
シワシワシワ
眼球がしわくちゃになっていく少女
「なんだと!?この女の子・・・・・!!まさかッ!ウソだろッ・・・・・信じられないッ!!そんな事がッ!!」
シワシワ
顔もシワだらけになっていく少女
「こいつは あの郡平の子供かッ!!彼女!!大郷楠宝子ッ!!屋根裏のッ!!『死体になった』ヤツの子を妊娠して産んだのかッ!!」
叫ぶ露伴の脳裏に愛しげに釜房郡平の死体を見つめる楠宝子
ドグッドグッ
どんどん血を流し続ける少女の死体
露伴の目アップ
「しまった!!こいつ ぼくに取り憑く気だッ!!『ヘブンズ・ドアーッ!!』」
ドォオオォン
露伴の背後から飛び出るスタンド、ヘブンズ・ドアー
帽子をかぶりコートを着た少年のような姿
バラバラバラバラバラバラ
瞬間、少女の顔や肩や腕が本になりページがめくれる
「まずいッ! まずいぞッ!ページの文字が消えていくッ!!」
バラバラバラ
ページに書かれた文字がどんどん薄くなって消えていく
「この子の『体』に刻まれた命の記憶がどんどん消えていくッ!!くそッ!」
バラバラバラ
少女の顔の白紙化するページ
「全部消えるッ!消えたら二度と生き返らないッ!その前にッ!!」
ドシュドシュッドシュッ
縦横無尽にペンを走らせる露伴
飛び散るインク
少女の顔のページには『岸辺露伴なんて知らない。 たとえ出会っても 岸辺露伴を見る事さえない。』と書き込まれた。
パチッ
目を開ける少女
「ドシャアァアアァーッ」
その顔はスタンドでも死体でも無い、ビラビラした布のようなものから目だけが出た妖怪のようなものに一瞬変わり変な叫び声を上げた
それを見ている露伴は全然動揺していない
シワシワの眼球が布のような顔から覗く
頭にはお下げを付けているが前髪は伸びてアゴの下まで垂れ下がっている
露伴は冷静な顔でそれを見ている
「・・・・・?」
キョロキョロ
次の瞬間、少女は元の可愛い女の子に戻り起き上がってあたりを見回す
頭を押さえて不思議な顔をしているが血は出ていない
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
不思議そうに後頭部を押さえる少女
「お母さーん お腹空いたぁーん」
タタタタタタ
すぐに駆け出して屋敷に帰る少女
ホッとしたようにためいきをつき、汗がドッと吹き出る露伴
「ハァハァハァ」
露伴の激しい息遣い
「あ 危なかった・・・恐ろしいやつだ あと一瞬 もう少し遅かったら・・あいつに取り憑かれていた もしくは破滅!」
露伴はつぶやく
| 『これがぼくが取材した妖怪だ・・・・』 |
電線と空
| 『妖怪六壁坂』 と名付けよう・・・ |
山々の風景
| いつ頃からなのだろう----- |
電線と家の屋根
|
ずっと昔からか・・・・・何百・・・・・・いや 何千年も昔からかも知れない・・・ |
暗い屋根裏と木の箱
| ずっと・・・ずっと人間の愛と心の弱点に取り憑いて・・・ |
美しい釜房郡平の目を閉じた横顔
| 全ての世話を人間にさせ自分は労働も責任も苦労も何も背負わず |
血の溜まっていくびん
| 『子孫だけを残すのを目的とした妖怪』いや『生物』・・・と呼んでもいいのかもしれない この生き物としての幸福の絶頂は・・・ |
山道と露伴の横顔
| 誰かの前で『死ぬ時』! |
| ・・・とするとこの地球上には あと何匹か・・・どこかで・・・・・・誰かの前で『死んで』・・・ヤツらは存在してるという事か・・・!? |
| ま・・・そんな事はどうでもいいか・・・・・ぼくは学者じゃなくジャーナリストでもないし漫画家だからな・・・・・ |
| ヤツらも大郷楠宝子もそれなりに幸せそうだし・・・目的はつきとめた |
リビングルームのソファでくつろぐ楠宝子と2人の子供
「お母さぁーん あたし いつかステキな人のお嫁さんになれるかなぁ」
少女は楠宝子のヒザの上に顔を乗せ甘えている
「いい子にしてればね きっとなれるわ」
やさしくそのお下げ髪に触れながら言う楠宝子
「ぼくは『庭師』になる」
『SBR』と書かれたTシャツを着た少女の弟らしき男の子が楠宝子の足元で言う
露伴は颯爽と片手にペンを持って電線が通う山道を行く
次なる『素材』への旅路へ----。
岸辺露伴----取材終了
岸辺露伴は動かない --六壁坂-- おわり
恐ろしい・・・妖怪伝説。
いや私この話とっても好きですねえ〜同じ『岸辺露伴は動かない』シリーズの最初のヤツと比べると
深さというか、考えるべきところがいっぱい有って面白いですねえ
やっぱし露伴先生、山いっぱい買って破産した甲斐がありましたよ
こんな面白いマンガを描けるのなら。
このストーリーのキモは3つありますね。
1つは『人というのはいともカンタンに死んでしまう』ということ。
1つは『しかしその死体を隠すのはけっこう大変だ』ということ。
最後の一つは『死体とそれを隠す人との間の愛』。
露伴先生のドリッピング画法やヘブンズドアーもカッコイイけどそれはあくまでファンへのサービス。
荒木先生は本当にこういう都市伝説モノが描きたかったみたいですねえ。
下地にあるのはそうですね
例えば今度公開される『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』みたいに、量産される死体を処理する『方法』。
遺体を埋めたり焼いたりするのは比較的簡単ですが、それでもかなり困難で見つかりやすいものです。
前出の理髪師は、隣のパイ屋の女主人と協力・・・いや結託して
死体をパイに加工して売るというものすごく非人道的かつ一石二鳥の方法を実践したワケですが
それでも、大きな頭蓋骨など特徴ある人骨をどう処理したのか気になります。・・・架空の話らしいですが。
それでも私はこのたぐいの話が大好きです。死体の始末の仕方とか使った道具とかすごく興味がありますねえ・・・
その一方で下地として考えられるのは、『腐らない死体』の存在です。
SBRでも記述されていましたが、聖人の遺体が腐食しないという話は有名というか、聖人である条件の一つであるそうです。
例の『あの方のミイラ』も腐敗していない聖人の遺体というわけですが、いかんせんミイラ化はしています。
しかし、世の中には本当に変色も乾燥もせず、生きたままの美しい色と質感を保ったままの遺体があるそうです。
『修道女ベルナデッタ』と『ロザリア・ロンバルド』、この2人の遺体は本当に数十年腐らなかったという報告があります。
(前者はその後かなり劣化したらしいですが)
荒木先生もこの話を知り、死体を『埋める』のでもなく『捨てる』とか『焼く』ではなく『保存する』という話を思いついたのでは無いでしょうか?
それで3つめのキモの『愛』ですが
このマンガで一番ショッキングなセリフ
| この生き物としての幸福の絶頂は・・・誰かの前で『死ぬ時』! |
私が1作目の岸辺露伴は動かないに出て来る『悪霊』に比べ、この作品に出て来る妖怪が好きなわけは
この妖怪が、自らの子孫を残そうという目的を持って『死ぬ』にしても
純粋に、『取り憑く相手を純粋に愛している』からです。
これは衝撃的ですよ。
釜房郡平が楠宝子に別れ話を切り出されたとき、ゴネだしたのを見て私は
「ああ、この男は楠宝子をゆするか、結婚後も強引に関係を迫るんだろうな」と思いました。
だけど彼は死んだ。
彼は、楠宝子を愛し、信頼し、その運命を全部彼女に託して『死んだ』のです。
もしかしたら、彼女は彼を『保存』しないで埋めてしまうかも知れない。
焼いてしまうかも知れない。
うまく遺体を隠せずに、誰かに見つかり『通報』されてしまったら、彼女は逮捕されるし
絶対に彼の遺体も『荼毘に伏されてしまう』でしょう。
火葬され埋葬されてしまったら、もう彼の子孫は残せないのです。
「彼女ならうまくやる」「彼女なら遺体を保存してくれる」という信頼感で自らの運命を賭ける事が出来るのは
妖怪ならではの能力に自信があるからでしょうが
結局はそれだけ「彼女を愛している」からに他ありません。
なんて、健気な妖怪。
よく「あなたと結ばれないなら死ぬわ」と愛する人の前で自殺を図る男女がいますが
この釜房郡平は、文字通り生きて愛し合うことが出来ないなら、死んで一生添い遂げたいと願っているのです。
うーむ、ある意味ロマンティックの極みですね。憑かれた方はたまりませんが
結局楠宝子は幸せに暮らしていますし、ものすごい勢いでそれを拒否した岸辺露伴も
もし、少女の術中にハマってしまっていたら
必死に遺体を隠し通して、自宅で一生少女を愛で続けていたと思います。
・・・その場合遺体が妊娠して子供を産むんでしょうか。ギャー!
それは置いといて、楠宝子はこれからどうなるんでしょうねえ
遺体をかくまうのもほどほどにしないと、自分が死んだ後にそれが発見されて大騒ぎになりますよねえ。
まあ遺体はミイラになっているので、楠宝子が遺体と『密通』していたことはバレないでしょうけど・・・
いや、どうやって遺体と子供を作ったんでしょうか
しかも2人も・・・1人目は妊娠したあとに釜房郡平を殺してしまったとも考えられますが
「庭師になる」って言ってる可愛くない顔の男の子も、やっぱり釜房郡平の血を受け継ぎ
妖怪の血に流れるDNAで、父と同じように「誰かの重荷になる」事を夢見ているように思われます。
うーむ、エグイ。
寄生生物に似たこの妖怪の不思議な生態系を考え付いたとき、荒木先生は小躍りするほど喜んだでしょうねえ。
とても面白いです。この『生き物としての幸福の絶頂』という視点が。
チョウチンアンコウという魚は、オスがメスよりものすごく小さくて、オスはメスを見つけるとその体と融合し一生一緒に生きていくそうです。
その際、オスの器官はどんどん退化し、まるで母親の胎盤から栄養を貰って育つ胎児のように、何もかもメスにゆだね
メスが卵を産む際、それを感知しタイムングを合わせ精子をかけるだけの存在になるようです。
美しい愛の形というのでしょうかこれも。
そして間違いなくチョウチンアンコウの『生き物としての幸せの絶頂』はメスを見つけ融合出来た時でしょう。
案外この妖怪のヒントはこんなところから来ているのかも知れませんね。
それではあふれるツッコミは明後日の『勝手にギアッチョ』をお楽しみに。
アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリーヴェデルチ!